神聖隊、隊列を崩さず散った

決断の瞬間 古代ギリシャ編 第2話

神聖隊、隊列を崩さず散った。時代背景・神聖隊の結成から、現場での出来事までをたどる。

テーマ: 古代ギリシャ想定読了時間: 約6分

時代背景

透真
スパルタ編を3話やってきたが、今回からはテーバイ編だ。同じ古代ギリシアだが、また別の都市国家の話になる。クロノス、当時のギリシア世界における、テーバイという都市国家の位置づけについての記録は?
クロノス
テーバイはボイオティア地方の中心に位置する都市国家で、軍事的にも強力だったことから、ボイオティア地方諸都市の盟主的な地位を確立していたと記録されています。アテナイ・スパルタと並び、覇権を争った有力なポリスの一つだったとされています。
玲司
スパルタ、アテネと肩を並べるレベルの国だったのか。
透真
クロノス、もう一つ、この後の話を理解するうえで欠かせない、当時の社会の慣習についても聞いておきたい。古代ギリシアにおける、成人男性と若い男性との恋愛関係についての記録は?
クロノス
古代ギリシアの都市国家では、成人男性と若い男性との恋愛関係(パイデラスティア(※1)と呼ばれます)が、市民としての義務として暗黙に認められていたと記録されています。年長者が若者に徳や技量を授ける、教育的な制度としての側面を持っていたとされています。テーバイは、こうした男性同士の恋愛関係が特に盛んな都市の一つだったとも記録されています。
玲司
ただの風習ってだけじゃなく、教育の仕組みでもあったってことか。
透真
しかも、テーバイではこの関係が、これから見ていくように軍事的な結束の理由としても使われることになる。まずはその部隊の成り立ちから見ていこう。

神聖隊の結成

透真
クロノス、神聖隊が結成された経緯についての記録は?
クロノス
紀元前378年、テーバイの将軍ゴルギダス(※2)が、精鋭歩兵部隊を結成しました。この部隊は150組、合計300名の男性の恋人同士によって編成されていたと記録されています。
玲司
恋人同士だけで組んだ部隊なのか。それ、狙いは何だったんだ?
透真
クロノス、その編成方針の理由についての記録は?
クロノス
記録には、共に戦場に出ることで、互いに惨めな姿を見せまいと勇敢に振る舞い、愛する相手を守るために奮戦する、という考え方に基づいていたとあります。
透真
クロノス、この部隊の名称の由来についての記録は?
クロノス
古代テーバイでは、ヘラクレスの甥であるイオラオス(※3)の廟が、男性同士の恋人が愛を誓い合う場所として使われていたとされています。プルタルコス(※4)は、「神聖隊」という呼称はこの風習に由来すると考えていたと記録されています。
玲司
普通の部隊なら、隣にいるのは戦友だろうけど、この部隊は隣にいるのが一番大切な相手ってことなんだな。
透真
この部隊は、その実力を紀元前371年の戦いで証明することになる。クロノス、その戦いについての記録は?
クロノス
紀元前371年、南ボイオティアのレウクトラの戦い(※5)で、テーバイ軍とスパルタ軍が交戦しました。テーバイの将軍エパメイノンダス(※6)が考案した「斜線陣」(※7)という新戦術のもと、ペロピダス(※8)が神聖隊を率いてスパルタ軍を破っています。
玲司
ここで、あのスパルタが負けるのか。
透真
クロノス、この戦いの重みについての記録は?
クロノス
この戦いは、当時最強とされたスパルタの重装歩兵密集隊の名声に決定的な打撃を与え、以後テーバイがスパルタに代わってギリシアの覇権を握ることになったと記録されています。
玲司
スパルタ最強神話を崩したのが、この部隊だったのか。前にスパルタ編でさんざん「最強」って感じで見てきたから、なおさら意外だな。

ここから先は会員限定です

『神聖隊、隊列を崩さず散った』の先で何が起きたのか

「決断の瞬間」シリーズは初月無料。続きを読んで、現場の出来事とその後、同時代人・後世の評価までを確かめる。

無料体験をはじめる

用語解説

パイデラスティア

古代ギリシアにおける、成人男性と若年男性との恋愛関係。市民としての義務、教育的制度として位置づけられていた。

ゴルギダス

紀元前378年に神聖隊を結成したテーバイの将軍。

イオラオス

ギリシア神話に登場する英雄。ヘラクレスの甥であり、恋人でもあったとされる。その廟は、テーバイで男性同士の恋人が愛を誓い合う場所として使われていたとされる。

プルタルコス

1〜2世紀のギリシア人著述家。『対比列伝』(英雄伝)の著者。

レウクトラの戦い

紀元前371年、テーバイ軍がスパルタ軍を破った戦い。スパルタの軍事的優位を終わらせ、テーバイの覇権確立につながった。

エパメイノンダス

テーバイの将軍・政治家。斜線陣を考案し、レウクトラの戦いでスパルタを破った。

斜線陣

一方の翼に戦力を集中させ、敵の一点を突破する陣形・戦術。

ペロピダス

テーバイの将軍・政治家。神聖隊を率いてレウクトラの戦いで活躍した。

カイロネイアのライオン

カイロネイアの戦いの戦没者を弔うために建てられたとされる石像。高さ約6メートル。

出典

  1. ウィキペディア日本語版「神聖隊」

    ja.wikipedia.org

    紀元前378年のゴルギダスによる結成経緯、150組300名の恋人同士による編成、名称の由来についてのプルタルコスの見解、テーバイが男性同性愛の盛んな都市であったこと、レウクトラの戦いでの活躍、カイロネイアの戦いでの壊滅とフィリッポス2世の反応を記載。

  2. ウィキペディア日本語版「カイロネイアの戦い」

    ja.wikipedia.org

    紀元前338年の戦闘経過、マケドニア軍の戦術、神聖隊の被害規模(254人の遺骨発掘)を記載。

  3. ウィキペディア日本語版「カイロネイア」

    ja.wikipedia.org

    1818年のカイロネイアのライオン像断片発見、1879〜80年の発掘調査の経緯を記載。

  4. ウィキペディア日本語版「レウクトラの戦い」

    ja.wikipedia.org

    紀元前371年のレウクトラの戦いにおけるエパメイノンダスの斜線陣、ペロピダス率いる神聖隊の活躍、スパルタの軍事的名声への打撃を記載。

  5. ウィキペディア日本語版「テーバイ」

    ja.wikipedia.org

    テーバイがボイオティア地方の中心都市であり、その盟主的地位を確立していたこと、アテナイ・スパルタと並ぶ有力ポリスであったことを記載。

  6. ウィキペディア日本語版「少年愛」

    ja.wikipedia.org

    古代ギリシアにおけるパイデラスティアが、市民の義務として暗黙に認められ、徳を授ける教育的制度として機能していたことを記載。

  7. ウィキペディア英語版「Sacred Band of Thebes」

    en.wikipedia.org

    プルタルコスによる神聖隊の名称由来(イオラオス廟での恋人同士の誓い)についての記述、フィリッポス2世が神聖隊の遺骸を見て残したとされる言葉についてのプルタルコスの記述を記載。

  8. y-history.net「カイロネイアの戦い」

    y-history.net

    戦闘の日付・両軍の布陣・戦術、神聖隊300人中生存者46人という被害規模を記載。

  9. y-history.net「テーベ」

    y-history.net

    テーバイがペロポネソス戦争後に台頭した有力ポリスであり、ボイオティア地方の中心に位置していたことを記載。

  10. コトバンク「カイロネイアの戦い」(日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典・山川世界史小辞典等)

    kotobank.jp

    両軍の兵力規模、アレクサンドロスの騎兵による神聖隊撃破、この戦いがマケドニアによるギリシア支配確立につながったことを記載。

  11. ニューズウィーク日本版「最強『スパルタ軍』を打ち破った『同性愛者たちの部隊』」

    newsweekjapan.jp

    1880年の発掘調査で発見された254体の遺骨のうち腕を組んだ姿のまま見つかった遺体があったこと、プルタルコスが「この部隊は愛する者と愛される者で構成されていたと言う人もいる」と記していること、19世紀の墓の発見以降、神聖隊が強さと規律正しさ、勇猛さの象徴として知られるようになったことを記載。

コメントする